みすぼらしい身なりをした男が二人、都会のすみの歩道で話していました。一人が黒い帽子、もう一人が白い帽子をかぶっていました。この二人はこのあたりで、道ゆく人にお金をめぐんでもらう毎日をおくっていました。
黒い帽子をかぶったほうがいいました。
「おいら、おめえみたいでなくてよかったよ」
「なにが」
「お目えはよ、いつもきたねえかっこうで人ごみをぶらついているがよ、みんなおめえをしかめっつらでにらんでくぜ」
「えっ・・・」
白い帽子の男はびくっとしました。黒い帽子の男は続けました。
「うすぎたねえやつだ。おめえを見てるとよ、つくづく情けなくなるぜ」
「そうかい」
「おめえはあわれだぜ。あわれなやろうだ」
「そうか・・・」
白い帽子の男はうつむいてしまいました。黒い帽子の男はさらにいいました。
「見ろよ。世の中これだけ人がいるのに、おめえみてえにきたねえなりしたやつはいねえだろ」
「そうだな・・・」
「まったく、どうしようもねえな」
白い帽子の男は困った顔になりました。
「おいらそんなにみっともねえか」
「おう、みっともねえ、みっともねえ」
「おいらほどみっともねえやつっていねえのかい」
「いねえよ、そんなやつ」
白い帽子の男は泣きそうでした。
「なあ、おいらどうしたらいいんだ」
「なにがだ」
「どうしたら、ましになれるんだ」
「おめえがかよ」
「ああ、おいら、どうしたらいいんだ」
「無理だよ、おめえには」
「おいら、このままなのか」
「あたりめえだ。おめえはみじめなままだ。ははは・・・」
白い帽子の男を指さして笑ったあと、黒い帽子の男は地面につばをはいて去っていきました。白い帽子の男がぽろぽろと涙を流している姿を、道ゆく人はじろじろ見ていきました。
四つの季節がすぎて、一年がたっていました。同じ場所で黒い帽子の男が、同じようにみすぼらしいかっこうの黄色い帽子の男をなじっていました。
「まったくのぐずだな。おめえは最低のやつだよ。見てるとはらが立ってくらあ」
ずっとこんな調子です。黄色い帽子の男は、
「おいらどうしたらいいんだあ」
と、べそをかきはじめました。すると黒い帽子の男は高笑いしながら、
「どうしようもねえんだよ。おめえはずっちそのまんまだ」
といってその場を去っていきました。
「ドイツもこいつもばかやろうばっかりでいやになるぜ」
しばらく歩いたあと、角の人通りの多い歩道にうすよごれたしき物をしいて、それにすわりました。これで、ほっといても親切な人はお金をめぐんでくれるでしょう。
「このわたしをお助けください。お願いでございます」
よ、いつものように涙をためて声をあげると、とんとんと肩をたたく人がありました。男はそちらを見ました。一人の紳士が立っていました。男はとっさに、
「あわれな身の上でございます。どうかおめぐみを・・・」
と頭を深くさげました。するとこの紳士は男がその目をうたがうほどのお金をさし出しました。
「ありがとうございます」
帽子の男は地面すれすれまで頭をさげてそういいました。すると紳士は、
「わたしだよ」
というのです。
「わたしだ。覚えているだろう」
そういいながら、よごれた白い帽子をかぶって見せました。きちんとした身なりに似あわない帽子でしたが、男はようやくこの紳士があの白い帽子の男だということに気がつきました。
今度は紳士が、
「ありがとう。おまえのおかげで、わたしはこうして今とってもしあわせだと感じられるまでになった」
と、深く頭をさげました。
「わたしはあれから、何かにとりつかれたように働いたんだ。毎日毎日朝早くから夜中まで。運も味方してくれた。たった一年で、すっかり人並みの暮らしができるようになったんだ。なにしろ、最低の人間だったから・・・」
そういいながら涙をぽたぽたと落としていました。
「ふん。朝から晩まで働きゃあだれだって金持ちになれるだろうよ。そんなことよりもなあ、そんなにおいらに感謝してるんなら、今度もっと金を持ってきな。ばちはあたらねえよ」
紳士はにっこりと聞いていましたが、腕時計を見て、はっとしました。
「ああこんな時間だ。おまえのことは忘れないよ」
そういって男の手をにぎり、行ってしまいました。
「ふん、ばかやろう、だれだって金持ちになれらあ」
人通りの多い街のすみで、黒い帽子をかぶったこの男の姿はなおあわれに見えました。