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恋の女神の神話

 

ある世界。

湿っぽく曇った空。こういう時太陽の神である陽神は昼寝をしているのです。ちょっとしたうたた寝の時もあるし、思いのほかぐっすり寝入ってしまうこともあります。

 陽神はとても疲れていました。すぐには目をさますようすではありません。

 こんな、天気の悪い日に空を支配するのは、陰神という、その名のとおりじめっとした性質の神です。

 でもこれからお話しするのはこれら陽神や陰神の話ではありません。

 どんよりとした雨雲から一滴のしずくが落ちたかと思うと、すさまじい勢いで激しい雨が降りだしました。

 大平原のただ中にいた少年ペシテは、走りながら雨やどりの場所をさがしました。だいぶ走って体じゅうぐっしょりになった時、ようやく雨やどりができそうな所にたどりつきました。そこは遥かなる花園というところでした。花園の南のほうに赤い実がなる木々があって、一番大きい木の下だと、この激しい雨もしのげそうです。ペシテはそこでほっと一息ついていました。そして着ているものをかわかしはじめました。

 遥かなる花園のあるじは恋の女神でした。恋の女神はこの大雨で、美しく咲きみだれる花々が散ってしまわないかが心配で、雨の中花園を見まわっていました。それでも雨があまりにもひどいので、雨やどりをしようと思いました。そして赤い実がなる木々の方へ行きました。そこでとても美しい裸の少年が火で着物をかわかしていました。恋の女神はその輝くほどの美しさに一瞬われを忘れてしまったほどです。

 皮肉なことに、もともと恋の女神に恋する感情は与えられていませんでした。もっぱら人々に恋がかなう力を与えることが大切な役目だったのです。恋の女神の手にかかった恋でかなわなかったものは一つもありませんでした。実にすぐれた女神だったのです。

でもこの時美しい少年ペシテを見た時、恋の女神に一種独特の激しい衝撃が襲ってくるのでした。恋の女神は言葉もなくただペシテの美しさに見とれていたのです。

 自分の前にあらわれた女性がこの花園の持ち主であることを知っていたペシテは、ことわりもなくこの場所で雨やどりをさせてもらった無礼をわびました。そしてここから立ち去ろうとしたのです。ところが恋の女神はペシテに、そのままここにいるようにといいます。ペシテは深い感謝の心いっぱいに、雨やどりを続けさせてもらうことにしました。

 長い時間続いた激しい雨もやっと小やみになりました。ペシテは今のうちに村へ帰ろうと思い、恋の女神に一度深々と頭を下げ、小走りにかけだしました。

 いつものおだやかさ、神々しさをすっかりうしなっていた恋の女神はそのあとをおいかけていきました。ペシテはほどなく自分の村へ帰りつきました。

 何日もたちましたが、恋の女神はペシテのそばをはなれようとしません。

 さて、まだ少年のペシテでしたが、ペシテにはディラというおさななじみのいいなずけがいました。互いに心を許しあった間柄です。恋の女神はある時そのことを知りました。そしてそれまで味わったことのない気持ちがめばえるのをどうすることもできませんでした。それはディラに対する憎しみの心です。恋の女神は平常の心をすっかりなくしていましたから、ディラをなきものにしようとしたのです。

 ある日ペシテとディラはフォルンの滝を見に行くことにしました。恋の女神はこっそりとそのことを聞いていました。気づかれないように二人のあとをついていきました。

 フォルンの滝はとてつもなく大きな滝でした。ごうごうと激しい音をたてて落ちる滝をながめるペシテとディラはとても恐ろしい思いでした。足もとはとても急ながけになっていて、うっかりふみはずすとひとたまりもなく深い滝つぼに落ちてしまいます。

 ペシテはディラをかばうようにしていました。恐ろしいたくらみをいだいた恋の女神がすぐうしろに来ているのに気づかずに、二人は滝を見ていました。

 恋の女神は、一瞬でもペシテとディラが離れるすきがあったらディラをつき落とそうと考えていたのです。

 けれどもペシテはしっかりとディラをささえていてなかなか二人は離れようとしません。うしろからそのようすを見ていた恋の女神に、今までにましてペシテをいとしいと思う気持ちと、どうしようもなく大きくなっていたディラへの憎しみが一度におそってきました。ちょうどその時、ペシテの手がディラから離れる瞬間がありました。恋の女神の手は持てる力いっぱいにディラをつき落としていました。

 まったく罪の意識もない恋の女神はペシテのそばにすり寄っていこうとしました。でもその時ペシテはディラを助けようと、滝つぼにまっさかさまにとびおりたのです。

 奇跡の力が二人にはたらいたのか、ペシテもディラも大切ないのちをおとさずにすみました。恋の女神はこの時はじめて、それまでの恐ろしくも激しい情念が消えていくのに気づきました。そして同時に後悔と自己嫌悪という今まで にない感情がめばえたのでした。

 その後恋の女神はふたたび自分の仕事をはじめました。ただし以前のようにすべての恋をかなえることはできなくなり、以後、恋の女神の力をもってしても、世の中の恋の半分はかなわぬものとなってしまいました 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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