ポポルの最高の一日
窓からお日さまが顔を出しました。ベッドで寝ているこぐまのポポルはそれでもすやすやで、おきるけはいはありません。
「おはよう。おはよう、ポポルくん。朝だよ。きょうは楽しみな日じゃなかったのかい」
お日さまはそういってポポルの顔に光をごそごそとあてました。
「むにゃむにゃ、なあに」
まだ半分夢の中にいるポポルでした。
「ポポルくん、きょうは早くおこしてくれっていってたんじゃないのかい」
「ふああ、あれ、お日さま。おはようございまあす」
「はい、おはよう。とっても楽しみにしていた一日のはじまりだよ」
「えっ」
ポポルはそういって、またしばらくすると、いっぺんに目がさめたような顔になりました。
「そうだ。きょうだ。きょうがきたんだ。きょうがきたんだぞ。お日さま、どうもありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。ポポルくんにとって、すごくいい一日になりますように」
やさしいお日さまはにっこりとそういうと、少しずつ上のほうへあがっていきました。
ポポルがこれほど、楽しみにしていたきょうがどんな日なのかというと、実はきょうは、生まれてはじめて遊園地につれていってもらう日だったのです。
食堂に行くと、朝食のしたくができていました。おとうさんは新聞を読んでいました。
「おとうさん、おはよう」
「おやおや、おはよう。けさは早おきできたんだね」
「えへん、もうおめめぱっちりだよ」
いすにちょこんとすわって、ポポルはおかあさんの作ってくれたおいしい料理を食べはじめました。
「ごちそうさまでした」
せなかを向けて台所のしごとをしているおかあさんは、
「あら、もういいの・・・?けさはあんまり食べなかったのねえ」
といいました。
「おかあさん、見てよ」
「まあ」
おかあさんがふりかえると、お皿にたくさんもってあった料理はからっぽになっていたのです。
「ぼくおへやに行って自分でしたくしてくるね」
ポポルは自分のへやに行き、おでかけ用の服に着がえ、お気にいりのきいろいぼうしをかぶって、おとうさんとおかあさんのいる食堂にもどってきました。
「はやく動物園、行こう」
そのあまりの早さおとうさんもおかあさんも、目をまるくしていました。おとうさんとおかあさんは、あわてて自分の身じたくをはじめました。小鳥が楽しそうにさえずる中、三人は家を出ました。
さあ、はじめての遊園地につきました。門をくぐると、たくさんのおもしろそうな乗りものが見えてきました。
「あれがメリーゴーランドでしょう・・・。あれがロケットで、ええっとあれがジェットコースターだ」
ポポルは、友だちに遊園地の話を聞いたり写真や絵を見たりしたことがあったので、乗りものの名前はすぐわかりました。わくわくしながらそれらを見ていました。
そしていろいろな乗りもので遊びはじめました。ポポルは楽しくてしょうがありません。朝早くおきてここへ来ているので、ほとんどの乗りもので遊ぶことができました。
「さあ、当遊園地のとっておきのジェットコースターに乗られるかたはいませんか。めずらしく、今なら待ち時間なしですぐお乗りになれますよ」
案内係のペリカンのおじさんが、くちばしをうまくメガホンがわりに使ってよびかけています。ポポルは大はしゃぎでいいました。
「なあんだ、まだあれに乗ってなかったじゃないかあ。おとうさん、おかあさん、あれに乗ろうよ」
おかあさんは、ジェットコースターはにがてだからよしておくといいました。ポポルはおとうさんの手をぐいぐい引っぱって、ペリカンのおじさんのところへ行きました。
「ぼくとおとうさんがジェットコースターに乗りまあす」
ペリカンのおじさんはいいました。
「はい、ありがとうございます。このジェットコースターは世界でただひとつ、とちゅうでレールをはずれて空をとびます。お月さまのまわりをくるりとひとまわりしてからもどってきます。こぐまのぼうや、ちょっとこわいかもしれないよ。だいじょうぶかな」
「はあい、ぜんぜん平気でえす」
そういってポポルはいちばん前の席にすわりました。横はおとうさんです。
・・・ガタン、ゴトン、ガタン・・・
ジェットコースターはゆっくりと進みはじめました。あんなことをいったけど、ポポルはほんとうは少しこわかったのです。でもおもしろそうだと思う気持ちのほうが、ずっとずっと大きいのでした。ジェットコースターはいちばん高いところへのぼりつめました。
・・・ガタン、ゴトン、ガタ
そして、いきおいよくすべりはじめました。
「きゃあ」
「きゃあ」
みんなは悲鳴をあげています。おとうさんは声こそ出しませんでしたが、しわくちゃな顔になっていました。ポポルはというと、頭の中がすっかりからっぽになったかんじです。底のほうへおりてしまうと、こんどはまたのぼりです。
いつのまにかレールがなくなっていました。ジェットコースターは宙をいきおいよくとびはじめていました。
「遊園地が小さくなっちゃったね」
「しっかりつかまってないと、あぶないよ」
町ぜんたいが、まるでとても大きな箱庭のおもちゃみたいに広がっています。まっ白なふわふわの雲をつきぬけて、ジェットコースターはぐんぐん空をのぼりつづけます。空の色がまっ青になりました。
「ポポルくん、楽しそうだね」
声をかけたのはお日さまでした。ポポルはそれに答えようとしましたが、あっというまにコースターは、お日さまから遠ざかっていきました。空が夜のような色にかわると、たくさんのお星さまたちがポポルに手をふっています。ポポルはお星さまたちに手をふってこたえました。
正面にお月さまが見えました。まんまるなお月さまの顔が、だんだん大きくなってきます。
「ようこそ。いらっしゃい」
「こんにちは」
「あれ、ポポルくん。きょうはおとうさんといっしょかい。いいねえ」
「うん・・・。ねえお月さま、お月さまって、近くで見たら、ずいぶん大きいんだね」
ポポルがそんなふうにいうと、お月さまは、
「ははは、そうかい」
と、ゆかいそうに笑っていました。ポポルも、いつも遠くにしか見えないお月さまが、こんなに近くにいるのでうれしくなりました。ポポルはほんとうにいい気分でした。ところが・・・。
「ああっ・・・」
その時、ポポルのきいろいぼうしが頭からはなれていってしまったのです。きいろいぼうしは、ひらひらと宙をまっていました。もちろんジェットコースターは、そのままお月さまのまわりを、いきおいよくとびつづけていました。
「ぼくのぼうしが・・・」
ポポルのお気にいりのぼうしは、もうずっと遠くへ行ってしまいました。
ジェットコースターはお月さまをはなれ、そして遊園地へともどってきました。
「おかえりなさい。いかがでしたか。楽しかったでしょう」
ペリカンのおじさんがいいました。おじさんはポポルを見て、
「あれ、ぼうや、どうしたかな。こわかったかな」
そういいました。ポポルがちょっぴり元気のない顔をしていたからです。
「いいえ、とっても楽しませてもらいました。どうもありがとう」
そういったのはおとうさんでした。ポポルはぼうしのことは残念でしたが、どうしようもないのであきらめることにしました。
遊園地をあとにした時、お日さまはもうだいぶ地面のそばまでおりてきていました。
家に帰って、夜になってもポポルは遊園地で、どれだけ楽しかったかを、おとうさんとおかあさんにくりかえししゃべりました。ポポルにとって、ほんとうにいい一日でした。
「さあ、一日遊んでつかれただろう。そろそろ寝る時間だよ」
おとうさんがそういいました。ポポルはこんども自分でしたくをして、ベッドにはいりました。窓の外を見ると、お月さまがにっこりとほほえんでいました。
「お月さま、きょうはとっても楽しかったよ。どうもありがとう」
「そうかい。よかった、よかった・・・」
「お月さま、おやすみなさい」
「おやすみ。ああそうだそうだ。ポポルくんにこれをわたさないと・・・。忘れものだよ」
お月さまはそういうと、ひらひらと何かをおとしました。それはきいろいお月さまとよく似た色でした。ひらひらひら・・・。
「ああっ、ぼくのぼうしだ」
そうです。それはポポルのだいじな、あのぼうしでした。
きいろいぼうしはゆっくり空をまい、やがてポポルのへやの窓からポポルのもとに、ぽとんとおちました。
「ぼくのぼうしだ」
ポポルはおおよろこびです。
「ぼくのぼうしだ。お月さま、ありがとう」
「はは、どういたしまして。また遊びにくるといいよ。では、おやすみ」
「おやすみなさい」
たいせつなぼうしもかえってきたし、きょうは最高の一日でした。こうしてこぐまのポポルの最高の一日は、静かに静かに幕をとじました。
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