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ロックと様 

 

 

ロックは、たいへんな働き者です。朝日が昇る前に果樹園へ行き、とっぷりと日が暮れた頃に自分の小屋に戻ります。

「何が楽しくて仕事ばかりやっているんだ」

 かげ口をいう人もいれば、直接いやみをいう人もあります。ひとついえるのは、その人たちはみな都合よく暮らしているということです。

 ロックはよく働きます。雨の日は雨の日で、小屋の中でくわやすきの柄の修理をしたり、かまの刃をといだりするのに余念がありません。

 ロックは今日もいつものように働いています。果樹園の仕事が一段落ついたら、今度はわきの野菜畑で一汗かくといった具合です。

 精を出して作ったくだものや野菜が食べ頃になり、町の人たちがそれを口にして、おいしいおいしいと喜ぶようすを思いうかべると、しぜんに力がはいります。もちろん一生懸命に作ってようやくまっ赤に熟したりんごをつみ取ってしまう時など、ちょっぴり寂しい気もしますが、それもしばらくのこと。すぐにそれを食べている子供の笑顔がうかんでくるのです。

 にんじん畑で、楽しくて楽しくて仕方ないといったようすで働いているロックの目の前が、突然ぱっとまばゆくひかりました。そして一瞬のうちに、そこにふつうの人の半分ほどの大きさの、緑色のへんな服を着た、まっ白なひげの老人が現れました。そしていいました。

「おどろいたかね」

 するとロックは、

「ああ」

と答えました。このへんな老人は、得意げでした。

「そうじゃろうそうじゃろう。さぞわしが誰なのか知りたかろう」

 ロックは、

「ああ」

と答えました。老人は、長いつえを見せびらかすようにしながら、

「わしはな、幸福の神じゃ。このつえで、どんな願いも一つだけかなえてやることができるのじゃ。わしに気にいられた者は、望んだことが現実のものになるという、とんでもない光栄にあずかることができるのじゃよ。どうじゃ、すごかろう」

 すると、ロックはまた、

「ああ」

と答えました。老人は物足りなさそうです。

「どうやら今、目の前でおこっている、このとんでもない現実の意味がよく理解できていないらしいな」

「じいさん、おれ今からにんじんに水をやるけど、別に話を続けていたいんだったらそのまましゃべってていいよ」

 そういって、ロックはせっせと水をまき始めました。

「わ、わしはじゃな、今まで何十人もの者どもを大金持ちにしてやったんじゃ。どれほどこうごうしく尊敬されたことか・・・」

 老人は、つえをロックの顔のすぐ前までつき出していいました。

「よし、この際おまえの望みをかなえてやるとしよう。さあ、何でもよい。いってみるがよい」

 しかし、ロックはこういいました。

「別に、何もないよ」

 幸福の神と名乗る老人はいいました。

「なにっ。ちょっと待て。わかっておるのか。ほしいものはないのか。色々あるじゃろう、たとえば、一生遊んで暮らせるだけのお金とか・・・。わしもずっとやっておるが、まあこれが一番人気じゃな・・・」

 ロックは、

「りんごの木の皮のようすを見に、あっちへ行くよ」

と、さっさと歩き出しました。老人は、あわててそのあとをついて行きましたが、ロックの足がはやいので、息を切らして、苦しそうです。

「はあはあ、お金は欲しくないのか。はあはあ。お金があれば、毎日こんな仕事など、する必要はないんじゃぞ。はあはあ」

「おいら、あんまりお金なんて欲しいと思ったことないな。どっか、ほか行ったらお金が欲しいってやつ、いるかもしれないよ」

 幸福の神様は困った顔になってきました。せっかく願いをかなえてあげるといっているのに、このロックときたらまったく何も望みそうにありません。もう、こうなったら意地でも願いをかなえて、ロックの鼻をあかそうと思いました。

「うほん。それならば、長生きはどうじゃな。これなんぞは、一番かしこい望みかもしれんな。いくら金があっても、早死になぞしたら、どうしようもないからな」

 ロックは、

「うん、それだったらすごく喜ぶ人、多いと思うな」

と、それだけいいました。幸福の神様は、

「お、おまえはどうなんじゃ、おまえ自身は。いつまでも長生きしたいと思わんのか・・・」

「ああ、できたら長生きしたいな。ずっと毎日働けたら楽しいかもしんないな・・・。でも、こればっかりはわからないもんな」

「何がわからんのじゃ。だからあ、わしがそのお前の長生きを保証してもいいといっておるんじゃ」

 幸福の神様の声は、ずっとかん高くなっていました。

 汗をひとふきしたロックの両肩に小鳥たちがとまり、チッチと遊び始めました。ロックはできるだけ動かないように、にっこりとそれを見守っていました。幸福の神様はいいました。

「では、美しい嫁さんなどは、欲しいとは思わんか。一日中一人で仕事ばかりじゃと、何かとたいへんじゃろう」

 しかしロックは、あいかわらず肩の上ではね回る小鳥を見ているだけです。

 突然木のかげから二人の男が出てきました。ニコとクリフです。いつも何かうまい話はなおかとぶらぶらしている若者たちでした。

「すいません。うしろで話を聞かせてもらいました。神様、このロックってやつは毎日毎日馬鹿みたいに働くことしか能のないやつなんです」

 ニコはいかにも愛想よく幸福の神様の顔色をうかがうようにいいました。次にクリフが、

「そうですよ。こいつは、なーんにも欲しいものなんてないし、そういうことを考えられるようなやつでもないんですから」

といいました。幸福の神様は、

「うむ。どうやらそのようじゃ」

といいました。すかさずニコとクリフがは、

「神様、そこでなんですが・・・」

と切り出してきました。

「ひとつ、どうでしょうか。そいつはほっといて、この私たちの願いをかなえていただくというふうには、できないもんでございましょうかね」

 幸福の神様は、しばらく腕組みをして考えていましたが、

「よかろう」

と答えました。

 結局ニコは、びっくりするほどたくさんのお金をお願いしました。

 一方クリフは、二百才をこえるまで生きられるようにとお願いしました。幸福の神様は、

「どちらも、このわしにはたやすいことじゃ」

といいながら、つえをひとふり、そしてもうひとふりしました。

「これで、おまえたちの願いはまちがいなくかなえられるぞ」

 ニコとクリフは、それはそれはすごい喜びようで、その場を去っていきました。

 幸福の神様は、それでも相変わらず黙々と、汗をかきながら働いているロックを見てつぶやきました。

「しかし、ほんとうにかわったやつじゃわい」

 

 季節が一つ変わり二つ変わり、そして何年もの時が移り過ぎました。

 ロックは今日もあの日と同じように、汗まみれ、泥まみれで畑の仕事に精を出しています。畑の広さはあの頃よりずっと広くなっていますが、今はここの仕事も二人でやっているので苦にはなりません。ロックは美しくてとても働き者のお嫁さんといっしょでした。

 もともとぜいたくなど知らないので、一年中働いて、はいってくるお金はたまる一方です。それに何より今は、ロックのことが大すきなお嫁さんの作ってくれる料理のおかげで、どれだけ体を動かしても、疲れるということはありません。

 ロックの目の前が、ぱっとひかりました。見ると、あの幸福の神様がたっています。

「ロック、しばらくじゃ」

「ああ、ひさしぶりだね。元気だったかい」

 神様へのあいさつにしては、少しおかしい気もしますが、ロックはそういいました。

 幸福の神様はあたりを見まわしました。ロックを取りまくまわりのようすがあまりにもよくなっているのを見て、それはそれは驚いていました。

 幸福の神様は、一体どうしてこうなったのか知りたくて、ロックにたずねると、ロックは、

「よくわからないよ。ただおいらは、自分がしたいことをずっとやってるだけだ」

といいました。

 ここへ来る前、幸福の神様は、ニコとクリフにところへ行ってきたのです。

 大金を得て、何もしないでだらだらと過ごしてきたニコは、ずいぶん重い、心と体の病にかかっていました。

 長生きできるからと、安心して遊びまわっていたクリフは、結局どうしようもないほど貧しい日々をおくっているようでした。

 そして、あの日何も望まなかったロックは、誰もがうらやむような幸せな時間をこうして過ごしています。

 幸福の神様は、あの日とまるで変わらない澄んだ目をしたロックを見ながら、言葉もなくただぼうぜんとしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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